
死者の日の料理:亡き人をしのぶメキシコの食卓
パン・デ・ムエルト、砂糖のドクロ、モレ・ネグロ、タマレス。メキシコの死者の日に、亡き人のために用意される伝統の料理と飲み物、その意味をご紹介します。
亡き人のために料理する、生きた伝統
死者の日(Día de Muertos)は、「メキシコ版ハロウィン」ではありません。生きている人が亡き人の好物を作って祭壇に供え、その魂が帰ってきて味わうのを待つ、深く、親密で、そして明るいお祭りです。亡き人は年に一度帰ってくると信じられています。道しるべになるのは、センパスチル(cempasúchil)と呼ばれるマリーゴールドの花、コパル(copal)という樹脂の香の煙、そして何より、生前に愛した料理の香りです。
年に一度ご先祖さまの魂が帰ってくるという考え方は、日本のお盆にも通じるところがありますね。この伝統のルーツは、アステカやマヤなど先スペイン期(スペイン到来以前)の文化にさかのぼり、スペインによる征服後にカトリックの要素と融合しました。2008年には、ユネスコの無形文化遺産の一覧表に記載されています。そして、その中心にあるのが食なのです。
死者の祭壇と料理
伝統的な死者の祭壇(オフレンダ)は、地域の伝統によって2段、3段、7段などの段で組まれ、ひとつひとつの要素に象徴的な意味があります。欠かせない料理は次のとおりです。
パン・デ・ムエルト
パン・デ・ムエルト(pan de muerto)は、このお祭りを象徴する食べ物です。オレンジフラワーウォーターとアニスが香る、ふんわりとした丸い甘いパンで、表面に砂糖をまぶし、生地で作った「骨」を飾ります。骨は亡き人の骨を、中央の丸い玉は頭蓋骨を表しています。
材料は、強力粉、卵、バター、砂糖、イースト、オレンジフラワーウォーター、アニスと、一般的な甘いパンとほぼ同じなので、家庭でも十分に作れます。特徴は、バターと卵をたっぷり使うこと。それによって、ブリオッシュのような食感が生まれます。
簡単レシピ:強力粉500g、卵4個、砂糖150g、やわらかくしたバター120g、ドライイースト11g、オレンジフラワーウォーター大さじ2、オレンジの皮のすりおろし、塩ひとつまみを合わせます。なめらかで弾力が出るまで15〜20分こねたら、2時間発酵させます。丸く形を整えて骨の飾りをのせ、さらに1時間発酵させてから、180°Cのオーブンで25〜30分焼きます。焼き上がったら溶かしバターを塗り、砂糖をまぶして完成です。
砂糖のドクロ
カラベラ(calaveras de azúcar/砂糖のドクロ)は、型で押し固めた砂糖で作る頭蓋骨です。アルフェニーケ(alfeñiques)とも呼ばれ、色鮮やかなアイシングで飾り、額には亡き人の名前を書きます。飾り物ですが食べることもでき、子どもたちは贈り物としてもらい、11月2日が過ぎてから食べます。
砂糖、メレンゲパウダー、水を混ぜ、ドクロの型に詰めて作ります。専用の型が手に入らない場合は、ドクロ形のシリコン製の製氷皿でも代用できます。
モレ・ネグロ
オアハカでは、モレ・ネグロ(mole negro)が死者の日に欠かせない儀礼の料理です。家族は何日もかけて、チルワクレ(chilhuacle)唐辛子やさまざまな材料、スパイスを炒っては挽き、準備を進めます。親戚一同やご近所と分け合うため、とても大量に作ります。
死者の日のモレ・ネグロは、メソアメリカを代表する儀礼の鳥、七面鳥と一緒に供されます。オアハカの唐辛子が手に入らない場合は、濃厚で深みのあるモレ・ポブラノ(mole poblano)で代えるのが、伝統への敬意を保てる選択でしょう。
タマレス
タマレス(tamales)も、祭壇と食卓に欠かせない料理です。地域ごとに伝統のタマレスがあり、それぞれの土地の味が並びます。死者の日のタマレスづくりは、みんなで行う行事です。家族が集まる「タマラーダ(tamalada)」では、生地を練る人、具を作る人、包む人と、それぞれが役割を担います。
亡き人の好物
伝統的な料理のほかに、祭壇でいちばん大切なのは亡き人が好きだった料理です。おじいちゃんが豆の煮込みのフリホーレス・チャロス(frijoles charros)が好きだったなら、それを作ります。おばあちゃんがライスプディングのアロス・コン・レチェ(arroz con leche)を好んでいたなら、それを用意します。ビールが欠かせなかったおじさんには、ビールを一本供えます。
この一人ひとりに合わせた供え物こそが、どの祭壇も特別で、心を打つものにしています。ありきたりの「死者のための料理」を作るのではありません。もうここにはいなくても、台所の中で記憶が生き続けている、ある特定の誰かのために、愛情をこめて料理するのです。
死者の日の飲み物
ホットチョコレート
パン・デ・ムエルトに添えるのが、ホットチョコレートです。メキシカンチョコレート(タブレット)を温めた牛乳に溶かし、モリニージョ(molinillo)という木製の泡立て棒で泡立てて作ります。チョコレートの香りも、魂を家へと導く香りのひとつとされています。
アトーレ
アトーレ(atole)は、トウモロコシの生地を水や牛乳に溶かし、甘みをつけてシナモンやバニラ、果物で香りづけした、とろみのある温かい飲み物です。チョコレート入りのアトーレ、チャンプラード(champurrado)は、死者の日に特に人気があります。
プルケ
メキシコ中央部の農村では、リュウゼツランの樹液を発酵させたプルケ(pulque)が、今も死者の日の儀礼の飲み物です。ヒョウタンの器、ヒカラ(jícaras)に注いで祭壇に置き、生前プルケを好んだ人に供えます。
家庭で死者の日を祝うには
メキシコ国外でも、メキシコ系のコミュニティを中心に、死者の日の祭壇や行事が行われるようになっています。家庭の台所から、この伝統に触れてみる方法をご紹介します。
- 小さな祭壇を作る:テーブルや棚に、亡き人の写真、花(センパスチルはマリーゴールドの一種なので、オレンジ色のマリーゴールドがよく合います)、ろうそく、お香、そして大切な人の好物を並べます。
- パン・デ・ムエルトを焼く:上の簡単レシピで十分においしく作れます。
- 思い出の料理を作る:モレでなくてもかまいません。亡き家族が好きだったものを作りましょう。その人を思いながら料理すること、それこそが本当の供え物です。
- 分かち合う:死者の日は、みんなで過ごすお祭りです。友人を招いて、料理と思い出を分かち合いましょう。
「亡き人が食べるから料理するのではありません。その香りで、今も愛していることを思い出してもらうために料理するのです。」
死者の日の料理カレンダー
地域や家庭によって異なりますが、準備の流れの一例をご紹介します。
- 10月28日ごろ:準備を始めます。材料を買い、唐辛子の下処理をし、豆を水に浸けます。
- 10月30日ごろ:じっくり煮込む必要があるモレを作ります。家族でタマラーダをします。
- 10月31日ごろ:パン・デ・ムエルトを焼き、砂糖のドクロを仕上げます。
- 11月1日:供え物をすべて並べます。亡くなった子どもたち、アンヘリートス(angelitos)の魂を迎える日で、軽めの甘い料理を用意します。
- 11月2日:亡くなった大人たちの魂を迎えます。家族でごちそうを囲み、料理や音楽、花を持ってお墓参りに行きます。
- その後:供え物を下げ、料理は生きている人たちで分け合います。何ひとつ無駄にはしません。
死者の日は、死が終わりではなく、めぐる命の一部であることを思い出させてくれます。そして、食べることという、もっとも生き生きとした人間らしい営みが、ふたつの世界をつなぐ架け橋になっているのです。

Recetas Mexas 創設者
メキシコ・プエブラ出身のITエンジニアで食べることが大好き。世界中の台所で作れるよう工夫した本格メキシコ料理のレシピを1,250品以上執筆。2018年からマドリード在住。
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