
エパソーテ、オハ・サンタ…メキシコ料理を決めるハーブたち
エパソーテ、オハ・サンタ、パパロ、ピピチャなど、メキシコ料理ならではの香りを生むハーブを紹介。手に入れ方や身近な代用品もまとめました。
メキシコ料理の「隠れた主役」
メキシコ料理を一曲の音楽にたとえるなら、唐辛子はメロディー、ハーブはハーモニーです。ほとんどの人ははっきりとは意識しないけれど、欠けると何かが物足りなく聞こえる、背景の音。メキシコのハーブは、「メキシコ料理の味がする」ひと皿と、「唐辛子が入っているだけ」のひと皿を分ける、目に見えない食材なのです。
世界ではパクチーやオレガノがよく知られていますが、メキシコ料理が使うハーブの顔ぶれは、はるかに幅広く個性的です。ナワトル語に由来する名前を持つ植物、ヨーロッパの料理にはない味、オアハカやプエブラ、ベラクルスの市場へ一瞬で連れて行ってくれる香り。簡単に手に入るものもあれば、代用品で工夫が必要なものもあります。
エパソーテ:豆料理に欠かせないハーブ
エパソーテ(epazote)(学名 Dysphania ambrosioides)は、パクチーに次いでメキシコ料理で重要なハーブといってよいでしょう。日本ではアリタソウの名で知られる植物と同じ仲間です。その味はひと言では表しにくく、ミントのような清涼感に、石油を思わせる独特の香り、ほのかな苦み、樟脳やアニスのようなニュアンスが重なります。不思議な味ですが、合う料理に使えば、ほかでは代えがたい存在になります。
主な使い道は次のとおりです。
- 黒いんげん豆:煮上がりの10〜15分前にエパソーテをひと枝加えるだけで、豆の味わいががらりと変わります。豆を食べたあとのおなかの張りをやわらげるともいわれています。
- ケサディーヤ(quesadilla):メキシコシティの市場で売られるケサディーヤには、チーズと一緒にエパソーテの葉がよく入っています。
- タマレス(tamales):とくにラハス(細切りのポブラノ唐辛子)とチーズのタマレスに使われます。
- モレ・ベルデ(mole verde):オアハカのモレ・ベルデやピピアン(pipián)に、ハーブらしい奥行きを加えます。
- エスキーテス(esquites)とエローテ(トウモロコシ):エスキーテスにエパソーテを少し加えると、おいしい一品が格別の一品になります。
エパソーテの手に入れ方
生のエパソーテが店頭に並ぶことはめったにありません。選択肢は次のとおりです。
- 乾燥エパソーテ:輸入食材店やオンラインショップで探してみましょう。香りは生より弱くなりますが、豆料理や煮込みには十分使えます。生の場合の倍量を目安にします。
- 育てる:エパソーテは丈夫で、雑草のようによく育つ植物です。日当たりのよいベランダなら鉢植えでも元気に育ちます。種はオンラインで購入でき、発芽も早く、葉もたくさん収穫できます。
- 代用品:完璧な代わりはありません。いちばん近いのは、メキシカンオレガノとパクチーに、ミントをほんの少し合わせる方法です。同じ味ではありませんが、ハーブの複雑さを補えます。
オハ・サンタ:森のアニス
オハ・サンタ(hoja santa)(学名 Piper auritum)は、ハート形の大きな濃い緑の葉で、アニス、こしょう、ユーカリを思わせる力強い香りを持っています。ベラクルス、オアハカ、タバスコ、チアパスの料理に欠かせないハーブです。香りがとても個性的なので、オハ・サンタを使った料理はすぐにそれとわかります。
主な使い道は次のとおりです。
- オアハカのモレ・ベルデ:オハ・サンタは主要な材料のひとつです。
- オハ・サンタのタマレス:生地を直接この葉で包み、蒸している間に香りを移します。
- 魚のオハ・サンタ包み:魚の切り身をオハ・サンタで包んでグリルで焼く、ベラクルスの定番料理です。
- モレ・アマリージョ(mole amarillo):オアハカのモレ・アマリージョには、刻んだオハ・サンタが入ります。
- オハ・サンタ入りのチョコレート:タバスコには、オハ・サンタを加えたすばらしいチョコレートドリンクがあります。
手に入らないときは
生のオハ・サンタを見つけるのは、ほぼ不可能です。いちばん近い代用品は、生のバジルの葉+八角少々の組み合わせです。よく使うなら、自分で育てるのもひとつの方法です。暖かく湿度の高い環境を好むため、温室や温暖な地域のほうが育てやすいでしょう。
パクチー:好みが分かれるハーブ
パクチー(香菜)(学名 Coriandrum sativum)は、現代のメキシコ料理でもっともよく使われるハーブです。サルサ・ベルデ(salsa verde)、ワカモレ、タコス、セビーチェ、スープや煮込みに入り、ほとんどすべての料理の仕上げにのせられます。フレッシュで柑橘のような香りがあり、好き嫌いがはっきり分かれるハーブでもあります。遺伝的な要因で、石けんのような味に感じる人が一定の割合でいることも知られています。
選び方:葉のパクチーはスーパーの野菜売り場でもよく見かけるようになりました。コリアンダーという名前で売られることもあります。種(コリアンダーシード)は別のスパイスなので、葉を選ぶようにしましょう。
保存のコツ:パクチーはすぐにしおれてしまいます。長持ちさせるには、花を生けるように水を入れたコップに挿し、ポリ袋をかぶせて冷蔵庫に入れます。この方法なら2週間ほどもちます。刻んで少量の水や油と一緒に製氷皿で冷凍するのもおすすめです。
メキシカンオレガノ:ヨーロッパのものとは別物
メキシカンオレガノ(学名 Lippia graveolens)は、ヨーロッパのオレガノ(学名 Origanum vulgare)とは別の植物です。植物学的には科からして異なります。メキシカンオレガノは、ヨーロッパのものより柑橘っぽく、土の香りが強く、ミントのような清涼感は控えめです。サルサ、アドボ(adobo/漬け込みだれ)、ポソレ(pozole)に広く使われ、食卓の調味料としても活躍します。ポソレには、乾燥オレガノを器の上から直接ふりかけます。
手に入れ方:乾燥したメキシカンオレガノは、輸入食材店やオンラインショップで見つかります。なければ、一般的なオレガノでも代用できます。同じ味ではありませんが、役割は十分に果たしてくれます。より近づけたいなら、タイムをほんの少し混ぜてみてください。
ほかにもある魅力的なメキシコのハーブ
パパロ
パパロ(pápalo)(学名 Porophyllum ruderale)は、とても香りの強いハーブです。パクチーを凝縮したような味に、ルッコラのような風味と柑橘のニュアンスがあります。加熱せず生で食べるのが基本で、プエブラのサンドイッチ、セミータ(cemita)や、タコスの添え物として使われます。プエブラでとくに愛されているハーブです。
手に入れるのはかなり難しいハーブです。代用するなら、ルッコラに少しパクチーを合わせるのがいちばん近いでしょう。
ピピチャ
ピピチャ(pipicha)(学名 Porophyllum tagetoides)はパパロの仲間ですが、より繊細な味わいです。アニスのような香りにすがすがしさがあり、タラゴンのニュアンスも感じられます。オアハカやプエブラで、生のサルサや料理の添え物に使われます。メキシコの外ではきわめて珍しいハーブです。
ケリテス
ケリテス(quelites/食用野草)は、メキシコで摘んで料理に使うさまざまな食用野草をまとめた呼び名です。キントニレス(quintoniles)、セニソス(cenizos)、ベルドラガス(verdolagas)、ロメリートス(romeritos)などがあります。ベルドラガスは日本でいうスベリヒユのことで、道端や畑でもよく見かける植物です。
ロメリートス
ロメリートス(学名 Suaeda nigra)は野生の植物で、クリスマスや四旬節の時期に、モレや干しエビのつくねと一緒に料理されます。メキシコシティを代表する伝統料理のひとつです。メキシコの外ではまず手に入らないため、塩性湿地に育つアッケシソウの仲間(シーアスパラガスとも呼ばれる)が、いちばん近い代わりになります。
チャヤ
チャヤ(chaya)(学名 Cnidoscolus aconitifolius)は、マヤの時代から食べられてきた栄養豊富な葉野菜です。ユカタンやタバスコでは野菜として料理されますが、生のままでは有害な成分を含むため、必ず加熱して食べます。代用するなら、ほうれん草やスイスチャードがよいでしょう。
代用品早見表
- エパソーテ →メキシカンオレガノ+パクチー+ミント少々
- オハ・サンタ →生のバジル+八角
- パパロ →ルッコラ+パクチー
- ピピチャ →生のタラゴン+パクチー
- メキシカンオレガノ →一般的なオレガノ+タイム少々
- チャヤ →ほうれん草またはスイスチャード
- ケリテス →スベリヒユ、ベビーリーフのほうれん草、クレソン
「ハーブはメキシコ料理の魂です。ハーブがなければ、あるのは唐辛子とトウモロコシだけ。ハーブがあってこそ、そこにメキシコが生まれるのです。」
これらのハーブを使ったメキシコ料理のレシピも、ぜひ探してみてください。乾燥エパソーテやメキシカンオレガノは、輸入食材店やオンラインショップで見つけることができます。本場の食材を使う店で、ハーブの香りが生きたメキシコ料理を味わってみるのもおすすめです。

Recetas Mexas 創設者
メキシコ・プエブラ出身のITエンジニアで食べることが大好き。世界中の台所で作れるよう工夫した本格メキシコ料理のレシピを1,250品以上執筆。2018年からマドリード在住。
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